
「ICL手術を受けたいけれど、自分の視力は適応範囲内なのでしょうか?」という質問を受けることが多いです。ICLは、強度近視を含めた幅広い範囲に対応できる手術として注目されていますが、それでも度数の範囲は決まっており、誰でも受けられるわけではありません。また、見えすぎによる“過矯正”にならないよう、ライフスタイルや見え方の希望をふまえた度数選びが非常に重要になります。
本記事では、ICLの適応度数の目安や、日本で承認されているレンズの範囲、度数決定の流れ、正確な度数選択を行うための術前検査についてわかりやすく解説します。安心して手術を受けるために、参考になれば幸いです。
ICLの適応度数とは?
ICLはレーシックと比べると強度近視を得意とし、広い範囲の適合度数をもっています。
逆に軽度の近視や遠視には、国内承認のレンズには適応がありませんので注意が必要です。
国内承認ICLレンズの適応度数
ICLの適応度数は-6.0D以上の強度近視とされています。そして-3.0D〜-6.0D、-15.0D以上の近視に対しては慎重適応となっています。現在国内で承認されているスター社の製品では、ある程度以上強い近視に関しては基本的に問題にはならないので、実質的には-3.0D以上が適応と考えてもらってさしつかえないです。
-3.0D以上の近視といわれてもピンと来ない方もおられると思います。視力が0.1を下回るような近視の場合は、基本的にICLの適応に入ると考えてもらってよいと思います。それ以上のことは術前検査を実際受けてみないとわかりません。軽度の近視の場合は、レーシックやオルソケラトロジーがよい適応になりますので、ICL手術はお勧めしません。
国内未承認レンズの適応度数
国内で承認されているICLは、軽度の近視や遠視には適応がありませんが、国内で未承認のICLには、軽度の近視や遠視に対しても適応があるものもあります。こういったレンズを含めるとほとんど全ての方がICLの適応に入ります。
しかし、国内未承認ということは日本の認証期間が安全性を認めていないということですので、あまりお勧めはできません。また特に遠視の方にICL手術を行う場合は、虹彩という茶色目の部分に事前に穴を開ける処置をしたり、手術後も手術の合併症のリスクが高いことからICL手術は行わないほうがよいです。
ICLの度数はどう決める?
ライフスタイル
ICLでは度数を変えることによって、術後どの程度の視力にするかをある程度コントロールすることができます。どのような視力が適切かはライフスタイルによって変わります。運転時の遠くの見え方を重視されたり、ゴルフなどのアウトドアスポーツをされる方は、1.5の視力を目指す方が多いです。また、パソコン作業が多い方の場合は、あえて1.0くらいの視力を目指すこともあります。
見え方の希望
ICLの手術前検査では、医師とのカウンセリングがあり、その時に見え方の希望を聞いた上で最終の度数決定を行います。視力は良ければ良いほどいいと考えておられる方がおられますが、それは違います。視力は基本的には1.0あれば十分で、現代人にはそれ以上は過剰なことが多いです。ICLのレンズ選択によって2.0という視力を目指すことは理論上可能です。
しかし、そうすると通常の状態でピントが遠くの位置にあるせいで、日常生活ではピントを近くにもってくるために目の筋肉が働きっぱなしの状態になってしまいます。この状態を過矯正といい、深刻な眼精疲労を引き起こすことがあります。パソコンやスマホが必須の現代ではあまり視力が良すぎるのは、デメリットが大きいということです。このような事情を説明させていただいた上で、各々の患者さんと相談をして最終的な度数を決定します。
ICLの度数選択を正しく行うための「術前検査」とは
ICLの度数を決めるには術前検査が重要になります。一般的にイメージする輪っかの穴の空いている方向を指し示す視力検査はもちろんのこと、専用の検査機器を用いて近視の度数を測定します。また、目にはピントを近くに調節するための筋肉がありますが、それが一時的に働かないようにする専用の目薬を用いての検査も行います。
ICLの手術の際には目の健康状態、目の病気がないかを細かく確認します。そのため、ICLの術前検査を受けるということは、詳細な目の検診を行うアイドックを受けるのと同じことになります。もし、ICL手術の適応がなかったとしても目の検診という意味でも非常に有用です。これらの検査は、国家資格を持った視能訓練士によって実施されます。
屈折検査・視力検査
ICLの度数を決める上でもっとも重要な検査となります。まずは、専用の検査機器で近視や乱視の度数を測定します。その上で一般的にみなさんがイメージする視力検査を行います。この時も単純に視力が一番良くなる度数だけでなく、その周辺の度数での見え方を細かく確かめ、乱視の度数をいれたほうがよいかどうかを調べます。
眼圧測定
眼圧とは目の圧力のことです。目の中は房水という水が循環しています。この循環が滞ると目の中の房水の量が多くなってしまい、眼圧が高くなります。眼圧が一定以上に高い場合は、将来的に緑内障を発症する可能性があります。場合によっては、ICL手術でさらに眼圧が上がってしまうことがあり、手術の適応外になることがあります。
角膜形状解析、前房深度検査、WTW精密検査
ICLのレンズサイズを決める上で最も重要な検査です。この検査結果が正しくとれていない場合は、ICLのレンズサイズが大きすぎたり、小さすぎたりすることで入れ替えが必要になることがあります。
今では、角膜形状、ICLがはいる空間である前房の深さ、角膜から角膜の間の距離を測定できるCASIA2という非常に高精度な検査機器があります。このCASIA2を用いて術前検査を行った場合は、ICLのレンズサイズが合わないことによるレンズの入れ替えが必要になることはほぼありません。そのため、ICL手術を受けるならこのCASIA2を導入してある施設でをお勧めします。
当院では当初よりICL手術を行うにあたって、CASIA2は必須と考えて導入しています。
角膜内皮細胞検査
角膜というのは黒目の部分のことです。角膜内皮細胞の数を測定する検査ですが、これは簡単にいうと角膜の元気さをあらわす数字です。この数字があまりに少ない場合は、術後角膜が白くなってしまうことがあるので、ICL手術を受けることができません。
長期間コンタクトレンズを使用している場合などにこの角膜内皮細胞数は減少することがあります。ただし、若い方の場合は、よほど特殊な病気がない限り減少することはありません。
瞳孔径測定
まず、暗所での瞳孔の大きさを測定します。人間の目は暗いところでは瞳孔を開くことで、より多くの光をとりいれようとします。この瞳孔の開き具合があまり大きいとICLの度数が入っている部分の範囲をこえてしまうので、見えにくくなることがあります。そのため、事前に暗所での瞳孔の大きさを測定することで、術後の見え方を確認するようにしています。
次に、瞳孔を開く目薬を用いてどの程度瞳孔が開くかを測定します。こちらは手術の際にICLを虹彩の下に入れる操作ができるかどうかを確認するためのものです。あまり瞳孔の開きが悪い場合は手術ができないことがあります。
細隙灯顕微鏡検査
診察室の顕微鏡で直接目を観察します。目に特殊な病気がないかどうか、ドライアイがないかなどを確認します。
眼底検査
眼底カメラと診察室の顕微鏡で目の奥の状態を確認します。特に網膜という部分に病気がないかをしっかりとチェックします。網膜に病気がある場合は、ICL手術ができない場合があります。
術前検査の注意点
コンタクトを取り付けていると検査結果が変わってしまうので、術前検査の前には一定期間コンタクトレンズの使用を休止する必要があります。また、術前検査では瞳孔を開く目薬を使用するため3−4時間の間まぶしくなってしまいますので、帰り道は注意が必要です。
ICLで正しく度数選択ができないとどうなる?
術前検査でできる限りICLの度数ズレが起こらないようにするのですが、それでも精度は100%ではありません。可能性はゼロではありませんので、度数ズレがおこった場合について説明させていただきます。
低矯正になった場合
ICLレンズの度数が足りずにやや近視が残ってしまう状態です。このような場合でも多くは両眼での視力は1.0以上を確保できること、また低矯正のほうがパソコンやスマホを見る時に疲れにくいというメリットもあるため、入れ替えを希望される方はほとんどいません。
遠くの視力をものすごく重視されるという方の場合は、術前説明時の相談で強めのレンズにするか相談し、決めていきます。
過矯正になった場合
ICLレンズが強すぎて、遠すぎるところにピントがあった状態です。この場合視力は2.0とよい結果になるのですが、日常生活では目のピントを近くによせるための筋肉が常に働いている状態になるため非常に疲れやすいです。その結果、深刻な眼精疲労がおこることがあります。
眼精疲労になると、目の痛み、かすみ、充血から頭痛や吐き気まで出てくることがあります。これらの症状が出る場合には、レンズの入れ替えが必要になります。過矯正になった場合には、将来老眼が比較的早く出てしまうこともあるので、当院ではなるべく過矯正にはならないようにレンズを選ぶことをお勧めしています。
ICLの度数選択が不安な方は、京都市伏見区のももの木眼科にご相談ください

ICLで適切な度数を選択するには、国家資格を持った視能訓練士による視力検査と精密な検査機器をもちいた目の状態の分析、そして、患者様個々人のライフスタイルにあった術後の見え方をしっかり相談する必要があります。同じ検査機器があっても扱う検査スタッフや医師によって術後の満足度はかなり違ってきますので、信頼できる施設で手術を受ける必要があります。
当院では、ICLの適切な度数を選ぶためにシステムを揃え、スタッフ教育にも力を入れております。ICLの度数選択が不安な方は、京都市伏見区のももの木眼科にご相談ください。